核兵器は世界からなくなるか?③

核兵器が生まれるまでには多くの科学者がその研究に寄与している。それは彼らの思いとは裏腹に、悲惨な結果を招いた。核廃絶を願うものがいれば核武装を望むものもいる。まずは核兵器ができるまでを知り、そして科学者たちの思いを知り、そして自分ならどう考えるかを考えて欲しい。

「原爆の父」ロバート・オッペンハイマー

マー君
マー君

ディアボロ先生!原爆って誰が作ったの?

原爆を作ったのはジュリアス・ロバート・オッペンハイマーというユダヤ系アメリカ人だね。1943年に彼が初代所長を務めたロスアラモス国立研究所は原爆製造研究のためのに作られたんだ。彼は後に「原爆の父」と呼ばれるようになる。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

原爆の父か・・・。呼ばれたくないな〜。

彼自身は平和主義者だったからそう呼ばれるのは辛かっただろうね。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

でも原爆を作った人でしょ?そう呼ばれて嬉しいと思わなかったのかな?

もちろん本当のところは本人しか分からないだろうけど、オッペンハイマーの家族は原爆が実際に広島と長崎に投下された後に、彼が原爆が無事に兵器として成果を発揮したという事実を喜ばなかったと証言している。そして、彼自身も後に「科学者は罪を知った」と原爆投下のことを語っている。そして核兵器廃絶を訴えていた。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

自分で作っておいて、そんな事言うの?理解できないな。

それは彼らの生きた時代を知らなければ理解できないだろうね。まずは核兵器ができるまでの歴史を見ていこう。

ディアボロ先生
ディアボロ先生

核兵器はアインシュタインのおかげ?

アインシュタインが特殊相対性理論を1905年に発表した。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

相対性理論は名前だけ聞いたことがあるよ!

そうだね。有名な理論で、E = mc2というシンプルでみんな一度は見たことがある数式があるね。これは「エネルギーは質量×光の速度の二乗」という意味だよ。だからエネルギーは質量と等価(とうか:同じ値)ということを表している。例えば物質が反応後に質量を少し失ったとすれば、それはエネルギーが放出されたことを意味する。運動エネルギー、熱エネルギーや位置エネルギーに転化されたという事だね。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

分かるような分からないようなだね〜。エネルギー保存の法則みたいなものだって考えたら良いのかな?

エネルギー保存の法則:エネルギーが物体から物体へ移動したり、形態が変わったとしても、その総量は変化しないという法則のこと。

そうだね。エネルギー保存の法則で言えば、高いところから物体を落としたら、加速して速度を得る。これは物体が位置エネルギーを失った代わりに運動エネルギーを得た事になる。結果的にエネルギーは同じだよってことだね。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

それは理解出来たんだよね〜!

エネルギーは質量と等価というのも同じように、物質はそもそもエネルギーを秘めているということを知ろう。もし物質が質量を失ったら、代わりにエネルギーを放出して、常にエネルギーは質量と等価という状態を維持すると考えるとイメージしやすいと思うよ。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

なるほど。わかったような気がするよ!これが核兵器とどう関わりがあるの?

原子爆弾は核分裂の連鎖反応によって莫大なエネルギーを放出することによって爆発を起こすよね。核分裂後の原子核は質量を必ず喪失するから、必ず発熱反応を起こす。質量喪失が熱エネルギーを生み出すということ。だからエネルギーは質量と等価という考え方がなければ、核分裂によってエネルギーが生み出せるという発想は存在しなかったことになる。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

アインシュタインの研究結果が核分裂でエネルギーを生み出すという発想を生んだのか!

「原子核分裂を発見」オットー・ハーン

そして、1938年にドイツの物理学者であるオットー・ハーンが原子核分裂を発見した。彼はリーゼ・マイトナーという物理学者と一緒に研究をしていたんだけど、当時はナチスがユダヤ人を迫害(はくがい:弱い立場にある者を厳しく押さえつけて苦しめること)していて、マイトナーもユダヤ人だったからその対象だったんだ。彼女はドイツから亡命した。その後もハーンはマイトナーと手紙でやり取りしながら研究を進めたんだ。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

ナチスドイツがユダヤ人を迫害してたのは知ってる!人種差別してたくさん殺したんだよね。

そうだね。アインシュタインもユダヤ人だからアメリカに亡命したのは有名な話だね。ハーンはその功績が認められて1944年にノーベル化学賞を受賞したけど、マイトナーと共同研究だったと認めなかったからマイトナーはノーベル賞を受賞できなかった。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

酷い!ノーベル賞一人占め!

そうだね。彼はマイトナーがいなくても研究は成功していたと言っていたようだ。本当のところは分からないけどね。ハーンはノーベル賞の賞金の一部をマイトナーには渡したとされているけど、マイトナーはそれはアインシュタインが運営してた原子物理学者のための支援委員会へ寄付したと言われている。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

偉い人だね〜。ハーンとは大違いだ!

確かに彼女は原子爆弾開発をするマンハッタン計画に誘われたけど、しっかり断っている。さらに彼女はドイツの科学者はナチスに抵抗しなかった事と、戦後も反省していないと厳しく指摘している。だから彼女の墓石には「人間性を失わなかった物理学者」と刻まれている。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

立派な人だね。だけどナチスはユダヤ人を迫害して殺したり、無茶苦茶してたんだよね。抵抗するのが怖いという気持ちもわからなくもないけどな〜。

ナチスの原爆を恐れて原爆を作ったアメリカ

ナチスドイツ が原子核分裂を発見したということは、原子爆弾を製造するであろうと言うことはみんな分かっていた。結果的には原子爆弾の製造はできなかったんだけど、当時のナチスドイツの勢いを止めなければ世界は暗黒に包まれると考える人も少なくなかった。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

原爆を作れなかったから良かったけど、もし作れていたとしたらゾッとするね。

だからナチスドイツの危険性を知った上でアインシュタインは当時のアメリカ大統領、フランクリン・D・ルーズベルトに手紙を送った。その内容は、「アメリカでも近い将来、核分裂実験は成功する。これは爆弾にも利用できます。」と言った内容だった。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

核爆弾を作って対抗しようという内容だね!

その通り。核爆弾は当時日本に落とす為に作った訳ではなく、最も驚異だったナチスドイツ への威嚇、そして対抗する為に研究、製造されたんだ。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

なるほど。やっとロバート・オッペンハイマーが「原爆の父」と呼ばれることが不名誉という意味が分かってきたよ。

広島・長崎への原爆投下で悔やむ科学者たち

ロバート・オッペンハイマーは核兵器に反対したとは初めに話したけど、アインシュタインも同じく、核兵器を廃絶を訴えたんだ。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

自分たちを守る為に一生懸命に開発したもので、たくさんの人がなくなったんだもんね。責任を感じざるを得ないよね。

広島と長崎の原爆での死傷者数は368,000人。原爆は無差別大量虐殺兵器だ。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

もう作られてしまって、威力もどんどん増していった原爆や水爆を、今後どうしたら減らせるのかな?

これはこれから何十年、何百年と抱え続ける問題だろうね。アインシュタインは「各国の平和的共存、協力のために我々は何ができるか。まずは互いの不安や受けた傷を取り除き、大量破壊兵器の廃絶を訴えることが明らかに必要だ。」ということを言っている。アインシュタインはラッセル・アインシュタイン宣言の中でも、平時で核を使わないという協定を結んでも、戦時にはそんな協定に拘束力はないと言っている。やっぱり核兵器を持っているものが強いんだ。だけど、ほんの一歩でもそんな協定は歓迎すべきだとも言っている。

ディアボロ先生
ディアボロ先生
マー君
マー君

やっぱりすぐになくなるような物ではないよね。それは僕も分かるんだ。だけど、アインシュタインみたいな頭の良い人が、そんな希望を言葉にしているなら、僕らも希望という言葉を意味のない妄想だと思わずに、大事にしていくことが大切だと思うな。

ラッセル・アインシュタイン宣言は1955年に人類が核兵器を廃絶に立ち上がるべきだと主張した宣言で、日本ではじめてノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹を含む9名が連署している。

核兵器をすべての国が同時に廃絶するというのは考えにくい。すべての国が核兵器を廃絶したときに、一国だけがそれをしていなかったとすれば、その国が戦争に勝つのは明らかであるし、核兵器を廃絶したと言いながら持ち続けるのではと勘繰るのは決して考えすぎではない。よって、現時点で来年、再来年に核兵器がこの地球からなくなるという考えは夢物語だと言われても仕方がない。

原爆の数千倍という威力を有した水爆を数カ国が保有している今日で、もし世界大戦が起これば、それは前大戦とは比べものにならない程の被害が及ぶのは間違いない。そんな中で私たちができることは、更なる核を持ち核の抑止力を高めることだろうか。それは果たして平和への道だろうか。

核武装論者の言い分が理解できるのは、核を持つものが強く、持たざるものは戦争に負けるからだ。しかし、国連という組織があり、EUという集合体があり、同盟という方法がある世界では、一つの国の意見だけでは世界は簡単に悪い方に流されないはずだ。そういう集合体は非常に動きづらさを持ち、決断に時間がかかり、一時の感情に流されないはずだ。

そもそも、悲惨な戦争の歴史を踏まえて「動きづらさ」という平和への選択肢を獲得してきたのではないか。

現在、核保有国は限られており、核兵器不拡散条約(NPT)が機能している国(核兵器国以外)は核を持たずにいる。そして、核を大量に保有するロシアとアメリカはその量を減らしつつある。

そんな中で日本が核を保有するという決断を下した時に、核兵器不拡散条約(NPT)加盟国がどのような反応をするだろうか。それこそ危機感を持った他国が核保有に動くかもしれない。それは、平和とは真逆の動きになりかねない。

核兵器完全廃絶は理想であり、私たちが生きている内に解決できる問題ではないと思っている。核廃絶という方向に進むことを諦めた時に、大きな問題が起こるであろうし、その方向に進んでいる最中にも大きな問題が起こるかもしれない。

それは誰にも分からないが、問題が起こらないように訴え続けることが無駄だとは思わない。アインシュタインを含め、原爆投下後に核廃絶を訴えた人たちの願いや、原爆の被害を受けた人やその家族の願いは、無駄ではないはずだ。

問題解決は直線的に進むのではなく、振り子のように良い方にも悪い方にも揺れながら、安定するところに落ち着くはずだ。その一時の悪い方に揺れるさまを見て、感情的に心を動かされるのではなく、人類の今までの反省を信じることが肝要ではないか。

西 友広
  • 西 友広
  • 趣味:映画鑑賞(ジャンル問わず)
       山登り