化学物質過敏症とは?②
化学物質過敏症は科学的なエビデンスが乏しいことや明確に病態が説明できないことから、その存在すら否定される事も少なくない。そんな状況だからこそ、患者の多くは症状だけでなく理解されないという心理的にも苦しい思いをしている。化学物質過敏症はなぜ存在を否定されるのか?一緒に見ていこう。
ディアボロ先生!化学物質過敏症って、化学物質で気分が悪くなったり吐き気がしたり、いろんな症状が出るのは分かったんだけど、1980年代から研究が始まってて、患者の数も結構いるのに、どうしてこんなに認知度が低いんだろう。匂いが辛いって言ってるのにそれでもうつ病に疑われるの?
確かに症状はうつ病の症状に似ているところもあったね。だけど、前回も話したように、ある化学物質で過敏症を発症した後は、どの化学物質でも症状が出るようになると言われている。そうなると生活する事自体が苦痛になる。うつ病というのは一つの結果と考えても良いはずだ。だけど、化学物質過敏症がうつ病だと言われてしまうことがある。
それはただのうつ病だよって片付けられてしまう事もあるってことだね?だけどうつ病になるのも原因があるから、その引き金が化学物質過敏症かもしれないって考えた方が良さそうだね!
そうだね。そして、化学物質の曝露(ばくろ:有害物質や病原菌にさらされること)実験が日本やドイツで行われた。クリーンルーム内で、化学物質を含む、または含まない空気に曝露させ、反応を見る負荷試験だったんだけど、結果はいずれの試験でも、患者と非患者、曝露と非曝露時の症状の変化に差はなかったんだ。心電図、呼吸 機能、イリスコーダーによる瞳孔反応、血球計数検査(血液中の赤血球、白血球、血小板の数や、ヘモグロビンの量などを調べる)、静脈血酸素分圧などを測定していた実験でも有意な差はなかった。
え?じゃあ化学物質過敏症って嘘なの?
決めつけるのはまだ早いかもしれないね。もし曝露時間を伸ばして実験していれば反応が出たかもしれない。これは研究者も認めているところ。それに他の化学物質なら出たかもしれないね。もちろん実験に使われた化学物質にたいして陽性反応を示した患者を対象に実験されている訳だけど、症状が時間をおいて出現することもあると言われている。だからこそ化学物質過敏症は実験で明らかにされづらく、理解が進まないと言える。
そもそも匂いで気分が悪くなる
化学物質過敏症って難しい名前だけど、そもそも僕は柔軟剤の匂いとか、観光バスの匂いで吐きそうになっちゃうんだ。これは僕が毎回なることだし、僕の周りでもそういう人いるよ。雑菌の匂いって「うわ!臭い!」ってなるけど、そんな匂いじゃなくて、気分が悪くなっちゃう匂いって絶対あると思うんだよね〜!
観光バスや柔軟剤、農薬の匂いで気分が悪くなる人は確かにいるね。新車の匂いがダメな人もいるよね。確かにそもそも匂いで気分が悪くなるのは多くの人が経験した事がある訳で、その成分となるものをまず除外していかないといけないだろうね。
匂いが症状の引き金に?
思うんだけど、一度でも化学物質過敏症になってしまったら、匂いがトラウマになってしまうと思うんだよね。僕なんて観光バスの匂いがダメだって分かってるから、観光バスに乗ると分かったら、乗る前から気分が悪くなっちゃう。
それは心理的な面で起こり得る事だよ。心的外傷後 ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder: PTSD)と言って、一度受けたトラウマを、あとでフラッシュバック(追体験)したりしてしまう事がある。PTSD発症機序(きじょ:仕組み)が 化学物質過敏症にあてはまる可能性があると言われている。マー君の場合、命の安全が脅かされるような体験をした訳じゃないからPTSDではないけど、そういった障害があるし、過去の体験を思い出して辛い気持ちになったり、実際に気分が悪くなる事はあるよ。
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)とは、生命の危機を感じるような強烈な心的外傷体験をきっかけに、実際の体験から時間が経過した後になっても、フラッシュバックや悪夢による再体験をおこす。トラウマの原因になった刺激を回避する行動をとったり、否定的な思考や気分、無力感、怒りっぽさや不眠などの症状が持続する。
もしかしたら、化学物質過敏症の人は一度なっちゃったら色んな化学物質に反応するって、匂いに対してPTSDみたいになってしまったって言えるんじゃないの?
そういった心理的な要因は除外できないだろうね。分からない事が多すぎるからね。マー君の指摘したような事が実際に正しかったと仮定すると、ある化学物質に対して反応するようになってしまったけど、その物質やそれ以外の物質に対しても心理的に症状が出てしまう可能性がある。だから、体にとっての害は事実あるけれど、心理的な問題も同時に抱えてしまうかもしれない。
じゃあ化学物質過敏症が本当にあったとしても、同時に心の問題も引き起こしているから、何に反応しているか突き止めるのが難しくなるよね!
そうだね。それはあくまでも仮定の話だけど、もし正しかったとすれば、どの化学物質がその患者に対して本当に悪影響を及ぼすものなのかを調べるのが難しいね。
今まで知られている病気や障害に似てるから、パッと当てはめてしまいたくなるけど、色んな事を考えないといけないんだね〜。
化学物質過敏症は医師の中にも十分な情報が浸透していないと言われています。そこにはエビデンスの不足が大いに関わっており、それがまた認知度の低さに関わっています。
しかし、実際に苦しんでいる患者は日本だけでなく海外にも多く存在しています。エビデンスは不足していますが、実際に苦しんでいる人たちがいるのは事実であり、治療が必要な状態です。
私たちは、理解し難い問題は既知の問題に当てはめて分かったように振る舞いたくなる部分があります。しかし実際に患者がいる以上、もしかすると本当に化学物質により体に問題が出ているかもしれないと、疑いながらも気に留めておく必要があるのではないでしょうか。
疾病利得(しっぺいりとく)という言葉があります。これは患者が疾患によって得る心理的・社会的・経済的利益のことで、嫌な仕事を回避するために風邪をひいたりしてしまう事があげられる。その症状によって回避したい何かがあるのではないかと勘ぐって、体調不良者を「ずるい」と考えてしまう事が多いようです。
化学物質過敏症の患者の多くは、この疾病利得があると周囲に思われている事が少なくないようです。特に化学物質過敏症のようなまだ分からない事が多い問題は、そのような傾向にあります。
現在、多くの自治体で化学物質過敏症の啓蒙活動をホームページなどを使って行っています。そして、この記事を作成するにあたり、資料提供いただいた化学物質過敏症支援センターでは、実際に患者への支援や啓蒙活動を行っています。本記事はその資料や論文、その他著作物などを参考にさせていただきましたが、詳細はここでは記載しておりません。本サイトは情報を元に考え方を中心に作成しておりますので、さらに詳しい情報を知りたい方は、化学物質過敏症支援センターのホームページ等をご覧ください。
分からない事が多い問題でも、知る事で守られる人たちがいるはずです。そして化学物質もまだ分からない事が多いものでもあります。
ネオニコチノイド系農薬は哺乳類のニコチン性アセチルコリン受容体には作用しないためヒトへの安全性が高いと考えられてきました。しかし、近年細胞レベルの実験により哺乳類への影響があるという研究報告がありました。それはヒトにも影響があるという事を示唆している訳です。全てに怯えるのは精神的に良くないかもしれませんが、これは国が認めているから安全という理由が絶対ではなく、自分自身で疑問を持ち考えるという姿勢が必要な一つの例ではないでしょうか。
現在エビデンスが少ないとしても、それは「現在」少ないのであって、だから社会が問題として取り上げなくて良いとはなりません。そして、過剰な匂いの添加で苦しんでいる人たちが多いという事実も、私たちは認識しておくべきです。