整骨院の不正請求は何故起こるのか?①
今やコンビニの店舗数と同じくらい多い整骨院ですが、整骨院は一体何をしてくれるところなのだろうか?「腰痛で整骨院に通っています」という方が多いのは私の周りだけではないだろう。整形外科とは何が違うのだろうか?不正請求のニュースを知っている人も多いだろうが、なぜそのような問題が起こるのか?一緒に見ていこう。
ディアボロ先生!昨日、友達を肩車した時に腰がグキってなってビックリするくらい痛かったんだ!病院に行ったら骨に異常はないって言われて、しばらく動かないでねって言われて湿布もらったんだ!今日は昨日よりマシなんだけどまだみんなと遊べないんだよ〜。
それは大変だったね。そういうのをみんな、ぎっくり腰って言っているね。お医者さんの言う通り、しばらく安静にしなきゃダメだよ。
動いたら痛いから動けないんだけどね!怪我した時に、家の近くに整骨院があるからそこに行こうってママに言ったらママが、「整骨院はレントゲンが取れないからまず病院に行きましょ」って言ってたんだけど、そうなの?
整骨院ではレントゲンは撮れない
その通りだよ。整骨院の先生は柔道整復師と言って骨折、脱臼、捻挫などの怪我をした時に固定とか元の状態に戻して回復を促してくれる専門家なんだ。だけどレントゲンは取れないね。
怪我の治療の専門家だからレントゲン撮れなくてもちゃんとしてくれるんじゃないの?
もちろんレントゲンを撮れなくても色々見ながら適切に判断してくれるだろうけど、マー君のママだけじゃなくて、ほとんどの人がまず整形外科に行くだろうね。骨折していたら後々大変なことになるし、特に背骨の中には神経が通っているから、腰の怪我はレントゲンを撮ってちゃんと診てもらわないと心配だよ。
そうなんだ!じゃあ肩を脱臼したときとかに整骨院に行くんだね!
いつ整骨院に行くのか?
そうだね。だけど、ほとんどの人が脱臼をしたと思ったら整骨院じゃなくて整形外科に行くよ。怪我をした人は脱臼なのか骨折なのか分からないからね。
え?じゃあいつ整骨院に行くの?
そうだね。それが今問題になっているところだね。整骨院の先生の専門は怪我に対する施術(せじゅつ:医療の術)だけど、怪我をしたほとんどの人が病院(整形外科)に行く。もちろんかかりつけの整骨院がある人は、ちょっとした怪我ならまずそこに行くだろうけど、そうじゃない人はまず病院に行く。だから整骨院の仕事は少ないと言える。
でも、脱臼を元に戻してくれたり、骨折の固定は整骨院なんでしょ?
それは整骨院でもしてくれるけど、病院でも出来るよ。
そうなの?じゃあ病院があれば整骨院に行く必要がないんじゃないの?
確かにそうとも言えるね。でもこの疑問に答えを出すには、まず整骨院の先生である、柔道整復師という資格が出来た経緯を知る必要があるね。
何故「柔道」整復師?
まず、名前に「柔道」が入ってるね。
そうだよね!気になってたんだ!柔道で怪我した人を治す専門家ってこと?
今でも柔道部に柔道整復師が専属的に関わっている場合はあるから、そういう印象もあるし、決して間違いとは言えないけど、日本には元々「柔術」という武術があったんだ。もちろん今でもあるよ。柔術には「殺法」と「活法」があって、「殺法」は後に柔道として競技になって、「活法」は接骨とはほねつぎになって、今では柔道整復術として今に至っているという経緯がある。
やっぱり柔道と関係あったんだね!
そうだね。江戸時代には柔道整復術は組織化されていたんだけど、明治に入って西洋的近代化が日本全国に広がっていく中で、医療も西洋医療が主流になった。医療行為をするなら医師免許が必要になり、柔道整復は認められていなかったので、存続の危機があったんだ。
あれ?それまで医師免許ってなかったの?
医師免許の歴史
そうなんだ。江戸時代までは医師免許はなくて、医師の下で修行をして医師になるのが一般的だったんだよ。医師免許が出来たのは近代化された明治に出来たものだよ。だけど、戦前まで無試験で医師になれる特典があったり、医師国家試験が導入されておらず、学校の水準が統一されていなかったから、今とは印象が違ったものだったようだね。
昔からお医者さんは今のお医者さんだと思ってた!お医者さんにも歴史があるんだな〜!
戦後は医師国会試験導入と、それまで専門学校として医学を教えていたところも大学に昇格したことは、日本の医療の水準の向上と安定に貢献した。これは今の私たちが安心して医療を受けられることに直結しているから、非常に大事な変化だと言えるね。
今の時代に生まれて良かったよ〜!
もっと先に生まれてもそう言うだろうけどね。そんな医師免許や制度の中で柔道整復の存在は否定的な流れにあったんだんだけど、柔道家を中心とした積極的な存続の働きかけによって、大正9年に内務省の規制改正の許可を受け「柔道整復術」として正式に復活したんだ。
ここでも柔道が関わっているのか〜!
昭和22年、GHQによって「武道の廃止と医学教育の伴わない医療の禁止」が公布され、再び柔道整復は存続の危機となったんだけど、ここでも働きかけ、柔道整復術の必要性と科学的根拠を示すことによって存続することが出来たんだ。
柔道整復と保険適応
ディアボロ先生!整骨院に通っても病院と同じように安く済むんだよね?
健康保険のことだね?その通りだよ。健康保険に加入していれば整骨院に通っている人は保険適応されるから、自己負担分は安く済むよ。
じゃあやっぱり病院みたいなものだね!レントゲン撮れないけど。
柔道整復の保険適応の歴史も知っておく必要があるね。健康保険が適応された初めての江東柔道整復師会で、昭和11年のことだったんだ。
あれ?保険適応だったら病院みたいに全ての病院で一気に保険適応されるものじゃないの?
この保険適応は特例だったんだ。当時、江東地区は山間僻地(へきち:都会から離れたいなか)で、周囲に病院がなかったんだ。だから、近くの工場労働者が体を痛めては柔道整復にお世話になっていたようだ。そこで柔道整復師の健康保険取扱いが認可されるべきだとして、江東柔道整復師会は工場協会に働き掛け、工場協会から内務省に健康保険適応を嘆願(たんがん:事情を説明して、ある事柄の実現を切に願うこと)したんだ。
それで認められたからその地域だけ保険適応になったってことだね?
そうなんだ。だから、保険適応させる場合は一通ごとに「近くに専門医不在のため」という理由書を添付しなければならなかったんだ。
へ〜!そんな歴史を知ると、整形外科と整骨院の関係が見えてくる気がするよ!医師はしっかりレントゲンを撮って診断してくれるけど、柔道整復はもっと身近な存在かもって思うよ。
スポーツトレーナーとしての柔道整復師
さすがマー君。今では医師がどこでも身近な存在だから、整骨院の存在意義が問われるけれど、その観点は大事で、怪我がよく起こる柔道を含め、スポーツの現場で働く柔道整復師がいるんだよ。
なるほど!怪我が起こる可能性がある場所でいればすぐに対応出来るもんね!
そうだね。それに怪我をしている選手が、良いパフォーマンスを発揮できるようにサポートすることも専門的に出来る。それが柔道整復の専門的なところだからね。
じゃあスポーツの現場ではものすごい価値があるね!
そうだね。だから日本のトレーナーと言われる職業は柔道整復師が担っていたし、今でも多くの柔道整復師が活躍しているよ。
今回は柔道整復の歴史と、スポーツに関わる柔道整復の話でした。次回は、そんな柔道整復師が経営する整骨院での不正請求問題についての話です。
ここまでの、歴史と現状を理解していただけると、一体どうやって整骨院は経営を成り立たせるのだろうかと多くの方が疑問に思うはずです。
それは、整形外科が多くあり、「119」で救急車が駆けつけ、病院へ搬送してくれる日本において、柔道整復を行う整骨院に一体どのような存在価値があるのだろうか?という疑問が起こるからである。
柔道整復の保険適応の歴史を見れば、国として初めて認めたのは「近くに医師がいない場合」という限定的な条件の下でのみだった。もちろん柔道整復を専門にする人からすれば、医師に負けない技術があるというだろう。しかし、残念ながらレントゲンが撮れず診断が出来ない立場というのは近代化された日本では非常に立場が弱いと言える。
それは、スポーツの現場で働くスポーツトレーナー(アスレチックトレーナーなど)の保険適応外の職種も同じではあるが、柔道整復師で保険適応のみを主体において整骨院で仕事をする場合は、医師と仕事の分野が大きく重なる為、どうしても患者側の選択肢として病院を選ばれるのは当然と言える。
次回は、そんな厳しい現状の中、多くの試行錯誤をする整骨院の取り組みが、不正請求や、そもそもの柔道整復から逸脱する例を紹介しながら説明していく。