整骨院の不正請求は何故起こるのか?②
前回は柔道整復の歴史の中心に話をしていきました。西洋的近代化を迎える明治に入り、医師には医師免許制度ができ、西洋医学が主流になる中で、柔道整復の肩身は狭くなる一方。そして、初の柔道整復の健康保険適応は近隣に整形外科がない地域の特例としての扱いだった。そんな歴史を踏まえ、現状の柔道整復の業界の問題を見ていこう。
ディアボロ先生!前回の話で柔道整復の歴史はなんとなく分かったんだけど、ほとんどの人が怪我をしたら整形外科に行くんだよね?それで、昔は整形外科が近くにない地域で柔道整復を健康保険を使って利用してた歴史があるでしょ?今はどこにでも整形外科があるし、救急車も来るよね?それでも整骨院に行く人ってそんなにいるの?
実際に利用する人は少なくないよ。だけどね、前回説明したように、怪我をした人をみるのが柔道整復師の仕事だけど、そうでない人が来院しているケースが多いんだよ。
どういう事?
マー君の言うように、怪我をした人の多くは整形外科に行くよね。その整形外科に理学療法士や作業療法士がいれば、診断された後に固定具を作ってもらって患部を固定したり、リハビリもそこで行ってもらえる。処置の仕方も教えてもらえるよ。
僕もそうだったよ!
そんな柔道整復の需要が多くない現代で、整骨院の数はどんどん増えて、今やコンビニと同じくらいの数が存在するんだ。その数は5万件を超えるんだよ。そんな中で捻挫、打撲、脱臼、骨折、挫傷という5つの外傷しか対応してはならない整骨院に、どれだけの患者が行くのかなって考えないといけない。
整骨院の数は5万件以上(2018年時点)
え〜!コンビニってどこにでもあるイメージだけど、そのコンビニと同じくらいあるの?
そうだね。じゃあ本当にそれだけの需要(じゅよう:必要としてもとめるもの。また求められるもの。)があるのかと言えば、あるとはとても言えない。
そんなに多いと思わなかったな。でも、確かに僕の家の近くにも結構あるかも!
そうだね。利用しない人はあまり目に止まらないかもしれないけど、よく見てみれば、その多さに驚くと思うよ。だからデスクワークで肩こり、腰痛になったといういう人は対象外だけど、それを健康保険を無理に適応させて請求するケースもある。
怪我じゃないと健康保険使えないけど、怪我した人がそんなにいないし、怪我した人が病院に行くから、そういう人を無理してみないといけないんだね!
もちろん、そういった方に対して、ストレッチや整体を行っても、健康保険を使わなず、全額患者負担でみてあげれば何の問題もないんだけどね。
それならお客さんも高額になるから来ないって事?
そうだね。整骨院の中には健康保険適応分と自費分を明確に分けて対応しているところもあるけど、そうでないところもある。整骨院内では柔道整復をするけど、あなたは怪我ではないから自費になりますよってちゃんと声をかけてくれるところは何も問題はないよ。
真面目にやっているところには頑張って欲しいな!でも、どうしてこんなに整骨院って多いの?
整骨院が急激に増えたのは裁判所の判決による
元々、国は整骨院の需要と供給のバランスを整える為に、柔道整復師の養成学校の新設を認めてこなかったんだ。だけど、開校を認められなかった男性が起こした訴訟で、福岡地裁が1998年に柔道整復師の数は過剰ではないとした判決を出した。だから、国は方針を転換して養成学校の新設を認める事になった。規制緩和だね。
それで学校が増えたから柔道整復師がたくさん増えたって事だね!
そうだね。当時は14校しかなかったけど、規制緩和によって100校近くにまで増えたんだ。
そんなに!?そうか〜。だから、みんな頑張って競争したんだね!
もちろんその頑張りが技術の向上だけにいけば良いんだけど、中には実際に治療していない人に対しての不正請求や、肩こり腰痛などに対するリラクゼーション目的のマッサージも保険対象の外傷だと偽ったり、実際には治療していない部位に対しても水増しして請求するなどの不正が多くなったんだ。
それは良くないね。生活しないといけないのは分かるけど、嘘ついちゃダメだよね!規制緩和が悪かったんだね!
そう決めつけて良いかは分からないね。もちろん規制緩和をすれば柔道整復師の数は増えるし、需要が少ない中、供給過多になるんだから不正請求する人も出るのは想像できるけど、そもそも不正請求出来る(したらバレる可能性があるけど)こと自体が問題だと考えた方が良いだろうね。
なぜ不正請求できてしまうのか?
不正請求ってそんなに簡単に出来てしまうの?
簡単に出来るけど、バレてしまう可能性もある。
バレないようにする方法があるからやっちゃうんだよね?
例えば、同業者から保険証を貸し借りしあって、来院してないけどした事にして、治療したとして不正請求することが出来る。実際に治療部位は捻挫した足首だけだったけど、腰も治療した事にする。デスクワークで腰痛になったけど、怪我をした事にするなど、いろんな方法が使えるね。
でもさ、そんな事した同業者や患者さんから話がバレてしまわないのかな?
同業者ならお互いにメリットがあるし、患者にとっては保険適応されないと自費になってしまって高額になる方が問題だったりするから、こちらもお互いにメリットがある。だけど、バレるのはそういった人からの通報だったりするけどね。もちろん患者側に知識がないから不正に気づかないケースも多いよね。
ほんとだね。僕が患者で行ってもよく分からないから、もし何か悪いことされても分からないね!
健康保険組合では、患者に対して注意を促している。施術内容をしっかり把握しておく事、領収書は必ずもらっておく事や、こんな場合は保険適応外ですよという案内をしている。なぜこんなことをしないといけないかと言えば、不正請求が横行し、問題になっているからだよ。
不正請求って整骨院ばかりがやっているの?
そんなことはないよ。例えば介護保険を利用する介護事業所でも不正請求が問題になって、2017年度に指定取消処分と効力停止処分となった介護保険施設や事業所は257件で、過去最多だったと厚生労働省が発表している。
どこでも不正請求の問題ってあるんだね〜。
介護施設や事業所の場合、従業員が指定の人数足りない場合、減算といって通常より少ない額しか請求できないんだけど、それを従業員は足りていましたよと嘘をついて請求するケースがある。人員に関する虚偽報告が目立つね。
介護保険の中でいろんなルールがあるんだね!
そうだね。介護施設の場合、管理者、生活相談員、介護職員、機能訓練指導員、看護職員といった様々な役割があって、生活相談員、機能訓練指導員、看護職員はそれぞれ有資格者である必要がある。だから、誰かが休んだから代わりに穴埋めで他の人をというのは難しい。決まり事が多いんだけど、まあ問題がある時は減算して請求すれば良いんだけど、介護の分野も経営が厳しいところが多く、不正請求するところがあるよね。指定取り消し処分を受けるようなところは、そもそも人員基準が満たされていないのに虚偽の報告をして申請する場合なんかもある。これは悪質だね。
そっか〜!整骨院だけの問題じゃないんだね!
そうだね。どこも嘘をつかずに運営出来れば良いんだけどね。
専門分野の領域を拡大させていく整骨院業界
ディアボロ先生は整骨院は今後減った方が良いと思う?僕は未だ必要なのかそうじゃないのか分からないんだよね〜。なくなってしまったら困る人って多いと思うんだ。だけどマッサージはマッサージ師さんがいるし、リハビリは病院で理学療法士さんがやってるし、応急処置はたぶん怪我した場所にいないと出来ないし、そうじゃなければみんな病院行くんだよね。
その通りだと思うよ。そもそも国が認めている柔道整復師としての仕事だけでは、5万件を超える整骨院の全てを守れないだろうね。もちろん、競争社会の中で淘汰(とうた:良いものを選び悪いものを除く事)されれば良いのかもしれない。だけど、数の問題だけじゃなくて、今後もその仕事そのものに疑問が持たれる可能性があるよね。
そうなんだ。だけど、体が辛い人は通いたいと思うんだよね。
それは、理学療法士や鍼灸師、マッサージ師の仕事の範囲になる場合があるね。
そっか!でもさ、僕の家の近くの整骨院の看板に「骨盤矯正」「姿勢矯正」「O脚改善」って書いてあるから、そういう問題がある人は、整骨院で治してもらったら運動しやすくなるよね!
そういう問題が治るか治らないかは分からないけど、日本柔道整復師会は『最近は骨盤矯正や脊椎矯正、頭痛や冷え性、単なるマッサージなどを行う接骨院や整骨院がありますが、これらは柔道整復師の業務範囲ではありません。』と、それらの業務を明確に否定しているんだよ。だから、やっぱりそういうところは本来柔道整復師の専門外なんだ。
え〜!たしかに怪我の治療が専門って言ってたもんね。どうして仕事じゃない事をしているの?
整骨院は街にたくさんあって、競争して勝たないと生き残れないよね。それぞれの特色を出して患者さんを多く集めないといけないからね。先生の知り合いにも柔道整復師はたくさんいるけど、彼らは柔道整復師の専門外のところも、自分でたくさん勉強しているよ。保険の外で力を発揮している人たちはいるんだ。
柔道整復師の仕事じゃなくても、自分で勉強して保険を使わずにしてるなら、問題ないってことだね!
特にトレーニング指導に関しては国家資格がないし、それをしたから違法という訳でもない。ただ、トレーニングに関してはちゃんと研究されていて、トレーニングを教えるストレングスコーチという分野の人たちは、民間資格ではあるけど保有していて、たくさん勉強している。そんな分野にも範囲を広げている柔道整復師もいるよね。
体の知識はあるんだから、そういう勉強をしていけば、いろいろみんなの役に立つ仕事も出来るかもしれないね!
超高齢者社会で体の専門家が求められる
もちろん何度も言うけど、それらは柔道整復師の専門外なんだ。だけど、これから超高齢社会になって、さらに寿命も伸びる。年金をもらえる年齢も引き上げられるかもしれない時代では、いつまでも健康でい続けなければ、生きていくことが困難になるかもしれない。
大変だね!僕も運動続けないとな〜!
そうだね。フィットネスクラブや、地域の体操教室に通っている人もいれば、自宅で運動を続けている人もいる。だけど、体のどこにも問題ないって人ばかりじゃない。そういう人をサポートするのがトレーナーだったりするけど、現在、柔道整復師として就業している人は7万人を超えている。彼らの中で、運動指導もできて、整骨院の枠を超えて仕事をする人が求められるかもしれないね。
保険に頼らない仕事だけど、怪我したらすぐに対応してくれるってありがたいね!
これからどんどん超高齢社会になるから、今までにない仕事が増えてくるかもしれないね。
筆者は運動指導に長く携わってきたが、医師や理学療法士、柔道整復師との関わりもあった。そんな中で整骨院の不正請求問題は日常茶飯事で、感覚が麻痺するくらい当たり前に行われていたのを耳にしていた。
私が指導するクライアントが、整骨院に行って治療してもらった場合、どのような事をされたのかは当然聞く必要があり、その内容を聞くと基本的にマッサージとストレッチであった。そのクライアントの主訴は肩こり、腰痛などだ。クライアントだけではなく、周りの人が整骨院に行く場合の主訴はおおよそそのようなものが多かった。
低周波治療器やウォーターベットを置いていることを看板に掲げていたり、骨盤矯正、姿勢矯正、O脚治療なども記載されているのをよく見かける。それらは、本来の仕事ではないが、日常化されすぎて気にも止めなくなるくらいだった。
しかし、彼らは柔道整復師としての知識と経験を積んでいる。もっと役に立つ場所があるのではないかと考え今回の記事を書いた。
フィットネスクラブのスタッフは、有資格者が少なく、アルバイトの従業員が多い。その中には資格の有無にか関わらず、よく勉強している人もいるのだが、専門家と言える人がほとんどいないのが現状だ。
マシンの使い方を教えることは出来るが、体の事となると部活の先輩から教えてもらう程度のあやふやな知識しかない人が多いというのは、現場で働く専門家はよく知っている事実だ。
トレーニングを教える人の中にはNSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)の資格を持っている人がいるが、これはトレーニングについての研究をホームページでも配信しているし、資格を取るにはそれ相応の勉強をしなければならない。トレーニングについては歴史のある協会だ。
こういった資格をもっている従業員がいるフィットネスクラブはどれくらいいるだろうか。
最近では年中無休で24時間営業で、ジムスタッフがほとんどいないフィットネスクラブも増えている。安価で使いやすいという利点がある。
トレーニングになれた人は通いやすいだろう。しかし、これからの時代には、寿命が伸び、体の問題を抱えた人が多くなる。そういった方でも健康でい続ける必要がある中で、そういった層を満足させるサービスは少ないように思う。
運動指導はほとんどないが安いという店か、運動指導はしてくれるがパーソナルトレーナーをつけないといけない高額な店の二択になりつつある。
私が学生の頃は、パーソナルトレーナーという職業はあったものの、ジムスタッフ全員がトレーニング好きで、教えるのも好きな人が多かったので、その必要性が少なかったように思う。だからこそコミュニケーションが豊富で、お客の体に合わせた運動指導ができた。
しかし、十数年前からトレーニングがパッケージ化され、商品のように売り出されるようになった。「これをやったら○ヶ月で○キロやせます」といったたぐいのものだ。
これでは、トレーナーが単なる商品の販売員に成り下がってしまう。そして、現状商品販売をするジムトレーナーが多い。
だからこそ、体について専門家の出番がこれからあるのではないかと思っている。それは柔道整復師に限らずだ。
それにはトレーニングの知識を学ぶ必要があるが、基礎がある者とそうでない者の差は歴然としている。これからの日本には、かかりつけ医だけではなく、かかりつけトレーナーが必要になると思っている。超高齢社会の中で、自動運転など便利な世界が待っているかもしれないが、健康だけはどんな便利な世界でも必要になるはずだ。