EUって何?②
EUの前身となる共同体があります。EUという言葉を知っていても、歴史を知る機会はあまりありません。EUになるまでの経過を知ることで、なぜEUが必要だったのか、なぜEUに加盟する国が増えてきたのかを一緒に見ていこう。
ディアボロ先生!ECSC(欧州石炭・鉄鋼共同体)が必要だったのは前回教えてもらったけど、ECSCがEUになったの?
EUができるまで
EUができるまでにECSC(欧州石炭・鉄鋼共同体)、EURATOM(European Atomic Community:欧州原子力共同体)、EEC(European Economic Community:欧州経済共同体)、という3つが結成された。その後1967年にそれらを統合する形でE C(European Communities:欧州共同体)が結成されたんだ。それから1993年にEU(European Union:欧州連合)となったという経緯がある。
ECSC(欧州石炭・鉄鋼共同体)発足1952年7月22日
EURATOM(European Atomic Community:欧州原子力共同体)発足1958年1月1日
EEC(European Economic Community:欧州経済共同体)発足1958年1月1日
E C(European Communities:欧州共同体)発足1967年 【ECSC・EURAOM・EECの統合】
EU(European Union:欧州連合)発足1993年11月1日
ECとEUは何が違うの?
ECは経済統合を推し進めるのが狙いであって、EUはさらに政治統合も推し進める狙いがあるんだよ。だからEUでは共通外交や安全保障政策に努め、警察・刑事司法協力も行うんだ。
どんどん合衆国に近づいているみたいだね!EURATOMって何?
EURATOM(欧州原子力共同体)ユーラトムとは?
EURATOMは、原子力の平和利用を促進、共同開発して、加盟国中に原子力エネルギーを提供する。そして、日加盟国に余剰分を売ることを目的としている。第二次中東戦争(1956年)をきっかけに石油依存度を下げた方が良いという考えから、原子力発電の開発の必要性があったと言われているね。
エネルギーを自分たちの国で作り出そうとしたんだね?このEURATOMの加盟国もECSCと一緒なの?
その通りだよ。フランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグの6カ国だね。
じゃあEECもこの6カ国だね?
EEC(欧州経済共同体)とは?
その通り。EECは大国であったアメリカとソ連(現ロシア)に対抗できるように、加盟国外に対する加盟国の関税統一、資本や労働力移動の自由化、農業・運輸・通商政策の共通化などを行ったんだ。
EUみたいだね!
そうだね。そして1967年にこれら3つをまとめてEC(European Communities:欧州共同体)が発足することになる。
EC(欧州共同体)とは?
どんどんEUに近づいてくるね!ECはディアボロ先生がさっき言ってたように、経済統合が目的だったんだよね。
よく覚えていたね。EC加盟国間は関税が撤廃されて、加盟国でない国に対しての関税を共通関税としたんだ(関税同盟)。そして、EC加盟国は拡大していったんだよ。
EC加盟国(年順)
1973年 英国、アイルランド、デンマーク
1981年 ギリシア
1986年 ポルトガル、スペイン
1993年 EU(欧州連合)発足
EU加盟国(年順)
1995年 オーストリア、フィンランド、スウェーデン
2004年 キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア
2007年 ブルガリア、ルーマニア
2013年 クロアチア
ECの頃からすべて含めると28カ国がEUに加盟していることになるね。英国が離脱するかもしれない(2019年11月7日時点)けど、徐々にその数を増やしているのが分かるね。
EUになったということはユーロが使われるようになったということだよね?
ユーロが非現金として銀行取引などで使われ出したのは1999年1月で、一般に紙幣や効果として流通したのはその3年後の2002年1月だね。ユーロは欧州中央銀行(ECB)と各国の中央銀行によって管理されている。
へ〜!EU発足すぐじゃないんだね!そういやスイスはEUに加盟していないの?
スイスは永世中立国(えいせいちゅうりつこく)
スイスは永世中立国だし、国民投票の結果でもEU加盟は反対多数という結果だね。
永世中立国?
永世中立国とは、自ら戦争を起こさないし、他の国家間の戦争にも参加しない、国際的に中立を守りますと宣言している国のことだよ。
へえ〜!そんな国があるんだね!でも、せっかく周りの国がみんなEUなのに、参加しないともったいないんじゃないの?
スイスはとても豊かな国で、逆に隣国のドイツなどから仕事にくる人がいるくらいなんだよ。国民の時間給は日本の2倍以上あるし、実はユーロよりもスイスフラン(スイスの通貨)の方が強いと言われているんだ。
だからスイスはEUに加盟しなくても良いのか〜!
実はスイスはEUに加盟はしていないんだけど、シェンゲン協定に参加しているから、他のEU加盟国と同じように、パスポートがなくても他の国へ移動できるよ。
シェンゲン協定?
シェンゲン協定はヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定のことなんだ。もともとはEU加盟国の間の約束事にしようとしたらしいんだけど、加盟国間で意見が一致しなかったからEUの外でシェンゲン協定として制定したんだ。スイスはこのシェンゲン協定に2008年に加盟したよ。アイスランドとノルウェーもEUには加盟していないけど、シェンゲン協定に加盟している国だね。
なるほど〜。EUに加盟していなくても、他の国とはいろんな形で協力しあっているんだね!
英国を例にEUを考える
EU加盟には各国が自国の利益や、ヨーロッパを戦場にしない、集団となって防衛をするなどメリットが様々ある。2019年11月現在、英国はEUから離脱しようとしているが、そもそも英国がECに加盟したのは経済的な理由からであり、EUのような政治的にも共同として動かなければならないものは、足かせだと感じるだろう。
英国はEUに対して年間約1兆円の予算を出しているが、これもEU全体として使われるお金であって、英国にとってEUに加盟している事が1兆円以上の価値があるとは感じていないと考えられる。
しかし、英国は英国でEUに加盟しながらユーロではなく自国通貨であるポンドを使用し、入国時は入国審査を行うという独自のルールを展開してきたのだ。移民受け入れなど頭を抱える問題もある。そう考えると英国がEUを離脱するというのは今まさに始まった問題ではない。
英国がEUから抜けるメリットは移民問題を自国で解決出来るようになることなどもあり、必要性を感じている国民も多いようだ。しかし現在EUに加盟しているからこそ、他国への移動がスムーズに行えており、アイルランドとの国境も自由に行き来できる。もし、EUから脱退するなら、アイルランドとの国境は簡単に通過できるものではなくなり、北アイルランド紛争を再度引き起こさないとも言えない。
他国間の往来が容易であるが故に、今まで大学や仕事や結婚をグローバルに考えられていたし、そのようにしてきた人たちがいるが、EU脱退は今後そういった自由を奪われると考える人もいる。
とにかく、脱退したがやはりEU加盟のメリットが多かったので再加盟しますというのは、英国以外の加盟国が同じように気軽に脱退を考えることにつながるので、EU側も慎重にならざるを得ない。
ここで、表向きではあったとしても、ヨーロッパを二度と戦場にしないという理念は重要であり、EUのような共同体が世界に広まるのは決して悪いことではないはずだ。テロリスト情報共有もEUでは重要な情報共有として機能している。
その重要なEUから英国が離脱するのは残念だと個人的に思う反面、20以上が集まる国々それぞれにメリットがあり、Win-Winの関係を作るのは非常に難しい問題なんだと考えさせられる。
スイスを含めてEUに加盟していない欧州の国は他にもある。そして、スイスのように違う形で協力し会える関係は作っていけるはずである。
英国が今後どのように進んでいくかは分からないが、EU離脱の詳細を一切決めずに国民投票を実行するような、考え無き投げやり政治で合意なき離脱を強引に進めてしまわない事を願う。