核兵器は世界からなくなるか?②
核の平和利用とは兵器としての核ではなく、原子力発電によって人類に電気エネルギーを供給するための利用のことです。しかし、原子力で使用されるウランや、利用を研究されているプルトニウムは核兵器の材料です。ウランやプルトニウム、原子力発電や核兵器の仕組みを知り、本当に核は平和利用だけに使われるのかを考えてみたい。
ウランとプルトニウム
デイアボロ先生!長崎と広島に原爆が落とされたけど、原爆にはウラン型とプルトニウム型があるって聞いたんだけど、何が違うの?
その通りだね。ウラン型は広島に落とされたものでリトルボーイと呼ばれた原爆。プルトニウム型は長崎に落とされたものでファットマンと呼ばれた原爆だね。ウランもプルトニウムも核分裂を起こして大爆発するというのは一緒。ウランもプルトニウムも元素という点では一緒だけど、ウランは天然で鉱山から産出されるけど、プルトニウムは天然ではなく、人工的に作られた人工元素だ。
ウランは鉱山でとれるの?プルトニウムは天然には存在しないの?
プルトニウムは自然界にほんのわずかだけ存在するけど、それはウラン鉱石の中にごくごく微量に存在する程度だね。だから人工元素と呼ばれている。プルトニウムは原子力発電の原子炉(げんしろ:核分裂を連鎖反応を制御しながら継続させる装置)で生成されるよ。
原子力発電所は原爆を作り出すことが出来る?
じゃあ原子力発電所でプルトニウムを作ってる?
プルトニウムを作る為に原子炉がある訳ではなくて、ウランを核分裂させて熱エネルギーを得て、その熱によって発電するんだけど、その過程でプルトニウムが生成されるんだよ。
ウランが核分裂をすると熱エネルギーが得られるんだね。その熱で発電所のタービンを回すんだったら仕組みは水力発電と一緒だね?
そうだね。火力発電も原子力発電も水力発電も、どうやってタービンを回すかが違うだけで、仕組み自体は大きく変わらないよ。
原子力発電はウランの核分裂によって熱を得て、水を沸かして水蒸気でタービンを回すのか。ウランもプルトニウムも原爆の材料だよね?じゃあ原子力発電所で原爆を作ることが出来るんじゃないの?
作れると断言している学者もいるし、作れないという学者は、精度が低く兵器としては適さないということを言っている。それは作れるということ自体は否定していないということだね。まず原発で使用しているウランが核兵器には適さない理由から見ていこう。
天然ウランはそのまま核燃料としては使えない
ウラン鉱山から産出されるウランには大きく分けて2種類あります。【非核分裂性ウランであるウラン238】と【核分裂性ウランであるウラン235】です。核燃料にしようする場合、このウラン235の割合を高める必要があります。そして、ウラン235の濃度を上げる同位体分離をウラン濃縮と言います。
天然ウランには核燃料にする為に必要なウラン235の割合が低いから、ガス拡散法や遠心分離を用いて、ウラン濃縮という工程を踏まなければならない。そして、グラフを見てもらうとわかる通り、原子爆弾を作るには更にウラン235の割合を上げて、90%以上にしなければならない。原発用のウランでは核兵器は作れないという訳だね。
じゃあ一応日本の技術でも原子爆弾に必要なだけのウラン235の割合を増やせるの?
核燃料用であっても核兵器用であっても、ウラン濃縮の製造工程は原理的に同じなんだ。だから可能だとも言えるけど、日本のウラン濃縮工場には自動制御装置があって、ウラン235の濃度が5%を超えないようになっているよ。
作れるけど作らないということなのかな。
そうだね。日本は非核三原則があって、核兵器を「もたず、つくらず、もちこませず」という考えを守らなければならない。だから原子力発電所は核の平和利用としてOKだけど、核兵器の製造はダメなんだ。
日本はプルトニウムを46トン保有している
日本はプルトニウムをどれくらい持っているの?プルトニウムも核兵器に使われるよね?
日本はプルトニウムを46トン保有しているよ。
46トン!?
これもさっきの話だけど、核兵器として使えるプルトニウムではないんだ。核兵器として使えるけど、それにはあまりにも兵器として非効率で使用できないと言って良いという学者の意見があるよ。
どうして使えないの?
原爆に使う為にはプルトニウム239が93%以上(核兵器級)でないといけないんだけど、原子炉で使えるレベルのプルトニウム239の割合は60%程度(原子炉級)で、核兵器には向かないようだ。
ウラン235と一緒で、濃度が高くないと核兵器としては使えないんだね。
そうだね。それでも46トンのプルトニウムが兵器として全く使えない訳ではなさそうだし、学者の中には、原子力発電所を電力生産用ではなく、プルトニウム生産用に切り替え、そして燃やした燃料棒(ウランを入れて密封し溶接した棒)を、青森の六ヶ所村にある六ヶ所再処理工場に持っていき、プルトニウムだけ抽出し、それを原爆にすることが可能という学者もいる。
ん〜。絶対使えないとはまだ言い切れないのか〜。
原爆と水爆の違い
ディアボロ先生!原爆と水爆って何が違うの?
簡単に言うと、原爆は核分裂によって爆発を起こす。水爆は核融合によって爆発を起こすものだね。
核分裂は原子力発電でも使われているよね。核融合ってなに?
核融合は原子核と原子核が近づいたときに一つになって新しい原子核になることだよ。水爆は、重水素と三重水素(トリチウム)が融合してヘリウムと中性子が生み出される。そのときに重量が少し軽くなる。軽くなった分のは莫大なエネルギーとなって放出されるんだ。
水素の爆弾だから水爆なんだね!?
その通りだよ。太陽はこの核融合によって熱と光を放っているんだ。核融合に必要なのは高温・高圧。太陽はそのどちらも持っている。しかし、水爆ではそんな高温・高圧をどのように手に入れるのかというのが問題なんだけど、実は核融合を起こさせる為に原爆を利用するんだ。
水素の核融合を起こす為に原爆を使うの!?
そうなんだ。詳細は明らかではないけど、水爆の中には水素を核融合させる為に一緒に原爆が入っている。原爆をまず爆発させる事で、水素が核融合して、さらに大きなエネルギーを生み出す仕組みなんだ。
じゃあ水爆の方が威力が大きいって事だね?どれくらいの威力なの?
およそ原爆の100倍から1000倍とまで言われているよ。
桁違いだね!そんなの実際に使われてしまったら地球が壊れてしまうよ。
実際に水爆実験は何度も行われていたし、被害も出ている。そしてロシアが開発した「ツァーリ・ボンバ(爆弾の皇帝)」と言われる水爆は、広島に落とされた原爆の3300倍の威力があった。
もうこんなのが戦争に使われたら地球はおしまいだね。威嚇だけの為に作ったとしても、国が窮地の場合は使用するかもしれないんでしょ?どこまで軍事力を持てば威嚇できるって考えるの?みんながもっと強力な兵器を開発したらさらにすごいのを作ろうとするのかな?
その発想があったから原爆の実験はずっと続けられてきたんだろうね。だから核を持つという発想がなくならないんだろうね。
核兵器不拡散条約(NPT)は一方的な条約だなってはじめ思ったけど、こういった話を聞くと、絶対ないとダメだなって思う。考え方は変わるな〜。
2000年以降の核実験は北朝鮮のみとなっている。ソ連がツァーリ・ボンバの実験をしたのが1961年10月。冷戦期はアメリカとソ連を中心に核実験は約2000回実施されたと言われている。近年の北朝鮮の実験回数など比にならない。
ある意味、核保有国は実験を一通り終えたと考えられる。しかし新たに核を持つのではないかと懸念される国がある。そして核兵器を作る技術は核兵器不拡散条約(NPT)によって他国に流出することを防いでいるが、原子力発電はその技術の一端を流出することになりはしないか。
原子力はトイレのないマンションと喩えられるように、高レベル放射性廃棄物は地中に埋めるという方法しか今のところありません。そして福島原発の廃炉には2050年までかかるという試算もあるように、事故が起これば放射能汚染や手に負えない問題が降りかかってきます。
発電においてはCO2を一切出さない原子力は環境にとって魅力的ではありますが、放射能汚染に関しては環境にとってとても悪いものです。
原発を考える際に、事故や最終処分のことを考えるのは当然のこととして、実は兵器に利用可能ではないかという問題も、同時に考えなければならない重要な問題なのではないでしょうか。